7年後の手紙



2年が終わった。私にとっては精一杯、君たち一人一人を理解したいと願いつつの月日だったけど、どれだけ果たせたか。もし行き過ぎがあったとすれば、どうか許してください。
何かあらためて書こうとすると、堅苦しいことしか出てこない気がして、結局やめた。
おわびに、今年のはじめ、私の手許にとどいた一通の手紙を、意を決して紹介することにしました。
思わず顔が赤くなっちゃいそうだけど、実は、ほとんどフィクション(ちょっぴりホントのことがある)だから、あまり真剣かつ深刻に読まないでね。


七年後の手紙


 今から七年前のお正月もこのような雪でしたね。暖かくて、大きなボタン雪が窓の外をいつまでも降り続いて・・・・。ごめんなさい。今あなたが名古屋だったこと忘れているなんて。
 でも、こうして雪を見ていると、何だか小さい頃を思い出してしまいます。先日お会いしたときも、何故か話題が昔に戻って・・・・。「雪には郷愁を呼ぶ不思議な力がある」ってキザっぽく誰かさんが言ってましたっけ。

 今から思うと、クラス会であんなお話をするなんて、まだ信じられないくらい。私もあなたに負けないほど、悩み考えてきたことですもの、このお便りをさしあげることさえ、ずいぶん悩みました。
 でもあなたの誠意にお答えしなくてはいけない。あの時は、そうするより仕方がなく、あなたを苦しめていることを考えるゆとりさえなかったとしても、私の身勝手な振る舞いだったこと、今は痛い程わかります。
 最後まで書けるかどうかわからない・・・。でも、私自身の新しい出発のためでもあるこのお便り、どうか私の気持ちがわかってもらえますように。

 あなたが一番知りたく思っておいでだったことについて、今更言うまでもないことかもしれません。何故お便りをもう出すまい、と決心したか?と問われれば、今でも先ほどのような言葉がふと口をついて出てしまうのですから。
 私が「私」だったとき、あの一番おしまいの、お手紙の交換を願ったことは今でも「偽らざる心の中」ーーでも、そのことはどうか強くおっしゃらないで・・・私だってとっても辛いことですもの。

 私にとっての決心は、ちょうど今から七年前のお正月、あなたのお家にクラブの人たちと遊びに行った日の出来事からでした。
 中学を卒業して別々の学校へ進んだ私たちでしたが、一つの目的に向かって前進しなければならないあなたにとって、私はきっと妨げになってしまう・・・。若い日には何も他のことを考えず、一つの目的へ突き進む時期が必要なのだーーということをはっきり知らされた日でした。でもこのことはあなたにとっては口実としか映らないかもしれませんね。
 私も、大好きな演劇をやめ”させられた”ことによって、真剣にそう考えていた時でしたし、最初は私自身の試練のつもりでもあったのです。
 でも、あなたから何度かお便りをいただくうち、自分自身がわからなくなってしまいました。
 こんな悲しい結果を期待していたのでは決してなかったのですから・・・。

 あなたのお気持ちがわかればわかるほど、私には耐えがたく思われました。あなたは私を買いかぶっていらっしゃる。いつか私はそうはっきり申し上げたつもりでした。私だって決してあなたがきらいだったわけではありません。でも、そのあとのお手紙でも、あなたは私をありのままに見てはくださいませんでした。そしてあなたがご自身の未来への抱負を確信をもって書かれているのを読んで、私はたまらない焦りと苛立たしさ、羨望をすら感じていました。私のことは私自身が一番よく知っているーー何度心の中で叫んだことか・・・。
 ごめんなさいね。気を悪くなさらないで・・・。
 折から信じ合っていた友人たちに裏切られ、ひとりぼっちで投げやりな気持ちとも重なって、何か口を開けば逆の結果を生んで帰ってきそうで、結局お互いが傷つくことを恐れたーーいいえ、というより、自分で自分がみじめでどうすればよいかわからなかったのでした。

 私もある時はたまらなくあなたが好きでした。一面に積もった雪をじっと見つめていると、あの劇の中の私たちが浮かんできて、胸がいっぱいになりそう。
 だけど、今思い返せば、遠い夢を見続けていた、おませな女の子だったのですね。

  ーー疲れたビルの谷間
    性(さが)の弱さを抱いて
    真に美しいものを求めて歩くーー
     思い出が、こんなにも
     強く、美しく
     生きつづけるとは・・・・

 何年か前に、日記の一ページに記した詩。そして「信じて敗北悔いはなし」なんて、平気で言っていた時代ーーもうそれは遠い思い出の中にしか見つけられなくなってしまいました。

 厳しい冬の時代を通り越した私たちに再び試練の季節が始まる。
 二度と会えないかもしれない私たち。でも、日本のどこかで力一杯がんばっている私たち。
 もし、どこかで会ったときには、お互いに「やあ、元気でやっているかい?」って言えますように・・・・。
                                            かしこ