ニューヨークタイムス 意見欄

           従軍慰安婦および日本の戦争の真実

                          Mindy Kotler(非営利調査団体Asia Policy Point所長

                                                      2014年11月14日

以下の邦訳は、ニューヨークタイムスおよびご本人の許可なくあくまで英文の学習用として概要を知るために行ったものです。誤訳・意訳などが随所に見られるはずですから、他への転用やブログなどでの掲載はご遠慮願います。ただし修正、訂正、ご意見などは大いに歓迎します。よろしく。

原文(英文) The Comfort Women and Japan’s War on Truth

1942年、日本帝国海軍中尉で主計科士官の中曽根康弘はボルネオ島バリクパパンに駐在した。飛行場の建設を監督するために任命されたのである。だが、そこで彼が見たものは、兵隊達の間で性非行やギャンブル、暴力行為が日常化し業務が遅滞していることだった。

中曽根中尉のとった解決策は、軍の売春宿、あるいは「慰安所」を組織することだった。4人のインドネシア人女性を得て始めた慰安所が彼の所属する軍の気持ちを相当に「緩和する」という上首尾を遂げたため、この若き士官は海軍の報告書において表彰されることとなった。

彼の軍隊に慰安婦を提供するという中曽根中尉の決定は、第二次世界大戦以前および戦中にわたり、インド洋、太平洋全域の幾千もの日本陸海軍の将校によって政策として「複製」されたのである。ナウルからベトナム、ビルマからチモールへ、女性たちは征服への最初の報酬として扱われた。

私たちは、彼の1978年の回顧録「3000人の司令官、23才(訳注 正式名:「終わりなき海軍」)」のおかげで、慰安所を開設した際の中曽根中尉の役割を知っている。当時、そうした報告は比較的ありふれたもので議論にもならず、また政治的な経歴の妨げになるようなものでもなかった。1982年から1987年まで中曽根氏は日本の総理大臣だったのである。

しかし、今日では慰安所への日本軍の関与が激しく争われている。安倍晋三率いる政府は、そうした歴史的な記録は国家の信用を傷つけるために仕組まれたウソなのだと描き出すべく総力を挙げている。安倍政権は、慰安婦は単に軍のキャンプに同行した売春婦だったと示唆して、日本軍による人身売買や強制売春のシステムへの関与を否定している。

最近の動きは、意図されざる皮肉というべきか、政権政党の自民党が中曽根氏の子息である中曽根弘文元外務大臣を「慰安婦問題に関して日本の名誉を回復する具体策を検討する」ために設立した委員長(訳注:中曽根氏は2014年10月15日、慰安婦問題を検証する自民党特命委員会委員長に就任)に任命した際に訪れた。

日本における(慰安婦問題の)公式の見解(物語)は急速に現実離れしてきている。それはまるで、アジア太平洋地域の慰安婦よりもむしろ日本人をこの物語の犠牲者として描き出そうとしているかのようである。
安倍政権は自らの歴史見直しが戦時における皇室の名誉と今日の国家的プライドを回復するために必須であると見なしている。
だが、このキャンペーンのより広範な影響は日本をして人権の抑圧に対する国際的な取り組みを後退させ、今後起こりうる戦争犯罪を告発するための責任あるパートナーとして見られようとする日本の願いを弱める結果となってきた。

安倍政権の主たる目的は、河野談話を希薄化することであった。河野談話とは当時官房長官であった河野洋平氏の名をとった1993年の声明のことである。
この談話は、日本軍とその請負業者のためにセックスを提供する売春宿と前線基地の戦時ネットワークに対する日本政府の公式の謝罪として広く理解されている。この談話は、1910年から1945年にわたって日本に併合され、多数の慰安婦の供給源であった韓国において歓迎された。

日本軍の当局者はセックスは士気のために良いと信じており、軍当局は性病がはびこらないよう管理・統制を促進した。連れてこられた女性たちには、陸海軍ともに医療検査が実施され、手数料が決められ、専用の施設が造られた。後にフジサンケイグループの議長をつとめた鹿内信隆氏は、帝国陸軍経理所で慰安所の運営を学んだ。そこでは、調達した女性の耐久度や消耗度をどのように決定するのかということも含まれている。(訳注:鹿内信隆著「いま明かす戦後秘史」(サンケイ出版/絶版)より文末の【注1】参照)

現在日本政府は、河野談話に対する嫌悪感を隠そうともしていない。2007年の第1次安倍政権において、内閣は2点において河野談話を攻撃した。その1つは、軍慰安所への女性たちの獲得について、強制性を示す証拠となる文書は存在しないこと、そして河野談話は政府の政策を拘束していないということである。 2度目の首相に就任する直前の2012年に、安倍氏(4人の次期閣僚メンバーとともに)は、ニュージャージー州の新聞に広告を出し、パリセーズ公園のある町に建立された慰安婦の記念碑に抗議を行った。その町には多数の韓国人が住んでいる。その広告では、慰安婦は単に当時の公娼制度の一部に過ぎないと論じている。(注2)

今年6月、政府は河野談話の再調査を公表した。そのなかで、韓国の外交官が談話の起草に関わっていたことや16人の元慰安婦の未検証の証言が採用されていること、そして日本軍が強制連行に関わっていたことを示す何らの文書もないことが示されているなどとしている。

その後、8月に入って、リベラルで知られる朝日新聞が、20年前に記載したシリーズもので誤りがあったことを認めた。記者は、海外での軍の売春用に済州島で韓国人女性を強制連行したと主張する労務支部員吉田清治の証言に依っていた。

学術団体は、以前から吉田氏の主張はフィクションであると断定していたのだが、安倍氏は、性奴隷というのは「根拠のない中傷的な罪」なのだと公然と非難するために、朝日新聞による今回の記事取り消しを利用したのである。しかも、慰安婦についての人数の多さや強制性といった歴史を否定する企図をもってである。10月に安倍氏は、「日本が客観的な事実に基づく公正な評価を得られるように国際世論づくりの戦略的キャンペーンを拡大強化する」よう指示した。

2週間後、日本の人権人道大使である佐藤地(くに)氏が国連に派遣された。それは、女性に対する暴力についての元国連特別報告者であるラディカ・クマラスワミ女史に対して慰安婦に関する1996年のレポートを再考するよう働きかけるためである。そのレポートは、第2次世界大戦中に日本が成人女性や少女をどのように性奴隷として強制したのかについての権威ある報告である。クマラスワミ女史は、撤回事例が1つあったとして、それは日本の占領地全域にわたる犠牲者の無数の史料や証言に基づく調査結果を覆すものとはならないとして再検討を拒否した。

インド太平洋全域で女性や少女たちが慰安婦のシステムに巻き込まれていく様々な態様が存在したし、被害者は日本軍によって占領されたどの植民地、プランテーション、領土でも発生した。隷属へとつながるレイプや略奪についての記述は、それがアンダマン島民が語ったものであろうがシンガポール、フィリピンの農民のものであろうが、ボルネオの部族民によって語られていようが驚くほど似ているのである。強制収容されたオランダ人の少年を含む若い男性もまた日本兵の性癖を満たすために襲われたケースもあった。

日本兵はフィリピン諸島のバターン第2総合病院でアメリカの看護師をレイプした。他の囚人たちは、彼女の頭を剃り男として男の服装をさせて彼女を守ろうと行動した。抑留されたオランダの母親は自分の子どもを養うために、ジャワの修道院の教会で自らの身体を取引材料にした。病院船ウイナーブルックが爆撃されスマトラに漂着した英国および豪州の女性たちは売春宿か捕虜収容所での餓えかの選択を迫られた。クマラスワミ女史は1996年の報告書で次のように書き留めている。
”東南アジアの全く異なった地域から集められた女性たちの叙述の一貫性、さまざまなレベルでの日本軍および政府の明白な関与は議論の余地がない。”

安倍政権は自身の政治的な理由のために、広範な歴史的記録を故意に無視し、代わりに論争のある植民地時代の韓国女性たちに対する日本の扱いに焦点を当てている。クマラスワミ女史に拒絶されたために、菅義偉官房長官は、日本の場合に関して慰安婦が性的奴隷であるとする記述を削除することを求め、国連人権理事会などの国際機関で提唱し続けると明言した。

安倍政権における否定論者の執着がもたらす重大な真実とは、クマラスワミ報告書に疑問を呈するというだけではなく、これとは関連のない最近の戦争犯罪に関する国連のレポートに挑戦することになるということである。そしてまた、このことは被害者の証言を退け忘れ去るということに他ならない。
3月、国連人権委員会において決議が投票にかけられた際、日本はスリランカでの戦争犯罪に関する国連調査への支援を棄権した(注3)。(カナダは人権理事会のメンバーではないが調査を支援する声明を発表した)。外務省木原誠二政務官はスリランカ公式訪問の際に、大統領に対し「我々日本政府は国際団体による偏向した調査報告を受け入れる準備はできていない」と語っている。(注4)

戦時における強姦や性的人身売買は世界的な問題のままだ。私たちがこれらの人権侵害を減らすことを望むならば、歴史を否定する安倍政権の試みはすんなりとそのまま通すわけにはいかない。国連安全保障理事会の常任メンバー、とりわけ日本の慰安婦制度に陥れられた人々を持つ国はすべて、人身売買と性的奴隷の歴史的な記録を否定するよこしまな安倍政権にはっきりと異議を申し立てるべきだ。

とくに米国は、日本の同盟国として人権と女性の権利がアメリカ外交政策の柱であることを思い起こさせる責務がある。もし私たちは声を上げないならば、私たちは日本の否定論の共謀者だけでなく、性的暴力を含む戦争犯罪を終わらせようとする今日の国際的な努力を損なう行いに連座することになってしまうだろう。

【注1】http://lite-ra.com/2014/09/post-440.html
「鹿内 (前略)軍隊でなけりゃありえないことだろうけど、戦地に行きますとピー屋が……。
 桜田  そう、慰安所の開設。
 鹿内  そうなんです。そのときに調弁する女の耐久度とか消耗度、それにどこの女がいいとか悪いとか、それからムシロをくぐってから出て来るまでの“持ち時間”が将校は何分、下士官は何分、兵は何分……といったことまで決めなければならない(笑)。料金にも等級をつける。こんなことを規定しているのが「ピー屋設置要綱」というんで、これも経理学校で教わった」

【注2】意見広告
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-01-06/2013010601_01_0.html
米ニュージャージー州地元紙「スターレッジャー」2012年11月4日付に掲載。
「女性がその意思に反して日本軍に売春を強要されていたとする歴史的文書は…発見されていない」
「(「慰安婦」は)『性的奴隷』ではない。彼女らは当時世界中のどこにでもある公娼制度の下で働いていた」などと主張している。
第2次安倍内閣の意見広告賛同者:
安倍晋三首相、古屋圭司公安委員長、稲田朋美行革担当相、下村博文文科相、新藤義孝総務相

【注3】スリランカ問題
過去の何度かの内戦によって、「2009年1月後半以降の戦闘の結果、7000人以上の民間人が死亡し、1万3千人以上が負傷した」「内戦終盤では4万人もの民間人が犠牲になった」と伝えられる(アムネスティ通信、HumanRightsWatchなどの記事)。
国連人権委員会ではスリランカでの戦争犯罪を調査することを求める決議が3月に投票にかけられたが、決議は賛成23ヵ国、反対12ヵ国、棄権12ヵ国で採択(日本は棄権)。中国、モルディブ、パキスタン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ベトナムのアジア6ヵ国が決議に反対。
http://imadr.net/hrc-slnew/
http://www.hrw.org/ja/news/2014/03/26-0

【注4】木原政務官のスリランカ訪問
http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/page3_000778.html
木原外務大臣政務官は2014年5月7日〜9日のネパール、スリランカを訪問。
9日にはバシル・ラージャパクサ経済開発大臣、モラゴダ大統領顧問などと会談するとともに、ラージャパクサ大統領への表敬を行っている。