ニューヨークタイムス 意見欄

         戦争の書き換え求め日本の右派が新聞を攻撃

                           By MARTIN FACKLERDEC

                                                      2014年12月2日

以下の訳文は、あくまで英文の学習用であり、記事の概要を知るためのものです。拙い訳ですから誤訳・意訳などが随所に見られるはずです。よって他への転用やブログなどでの掲載はご遠慮願います。

原文(英文) Rewriting the War, Japanese Right Attacks a Newspaper

札幌発:
植村隆氏がそのキャリアを踏み出すこととなる記事を書いたのは33才のときだ。当時植村氏は、第2位の出版部数を持つ朝日新聞の記者として、第2次世界大戦中に日本軍が女性たちに軍売春宿で強制して働かせていたのかどうかを調べていた。「涙なしでは思い出すことはできない」との見出しで書かれた彼のレポートが、韓国の元「慰安婦」の物語を伝えることになった最初の1つである。

それから四半世紀が流れ、植村氏=58才ですでに報道界から引退=が書いたその記事が日本の右翼政治家の標的となっているのである。タブロイド紙は彼に、日本の過去の「傷」を暴くことが目的の「韓国人のウソ」をまき散らした「国賊」としての烙印を押しているのである。植村氏は、暴力的な脅威で、彼の大学での教職が奪われ、まもなく第2の仕事をも奪われようとしていると語った。超国家主義者たちは、10代の娘に自殺をするようまわりに教唆するメッセージをネット上に流すなどして、彼の子どもたちの後をつけ回している。

この脅威というのは、右翼的ニュースメディアや政治家による広範で執拗な朝日新聞攻撃の一部分なのだ。朝日は日本の保守層が長きにわたって憎悪してきた新聞である。この戦いはまた、右翼的な安倍晋三政権の下で繰り広げられている、戦時の行為での日本の罪科をめぐる長い論争の中での最新の攻撃ともなっている。

だが、この最新のキャンペーンは、安倍氏自身を含む国家主義的政治家のもと、戦後の日本でもかつて見られたことのない空前の規模で展開されている。日本における進歩的な政治の影響力の最後の砦の1つを脅すという非難の洪水を解き放ってのことだ。このことはまた、戦時中に女性たちを売春行為に強制したことについて1993年に日本政府が謝罪したことの見直しを求める歴史修正主義者を励ましてもきた。

「彼らは歴史を否定する方法として脅迫を使っている」と植村氏は言う。植村氏は嘆願書で緊急性を訴えるとともに、自らを守るために書面でのインタビューに応じ、次のように語った。「彼らは私たちを脅して沈黙させたいのだ」

時事解説者が「朝日戦争」とよぶこの「戦争」は、朝日が世論の批判に屈して1980年代と90年代初頭に掲げた少なくとも12本の記事を撤回した2014年夏にはじまった。これらの記事は、当時兵士であった吉田清治の証言、すなわち、軍事売春宿のために韓国の女性たちを強制連行するのを手助けしたとの主張を引用したものだ。吉田氏の証言はすでに20年前に信用されないものとされているのだが、日本の右翼陣営は朝日新聞の対応をかさにかかって攻撃し、135年の歴史をもつこの新聞を社会から消し去ろうと不買を呼びかけている。

この10月、安倍氏は国会の委員会で次のように語っている。「朝日新聞の誤った報道が、多数の人々を傷つけ悲しませ、苦痛と怒りを与えた。これはまた、日本のイメージをも傷つけた」

今月の選挙で保守派は全国有数の中道左派の新聞を追い詰めようとしているーーアナリストはこのようにみている。朝日新聞は、日本の戦時軍国主義の贖罪に長い間貢献してきたし、他の問題でも安倍内閣に異議を唱えてきた。

安倍氏とその同盟者たちは、朝日新聞の苦境をより大きなゲーム、すなわち日本軍が何万人もの韓国人や他の外国人女性を戦時性奴隷として強要したという今日国際的に受け入れられている見解を追跡するというゲームの千載一遇のチャンスとしてとらえたのだ。

ほとんどの主流の歴史家は、日本帝国軍が占領地域において多くの女性を戦利品として扱い、中国から南太平洋までの広範囲にわたって慰安所で知られる軍の売春制度のもとで働かせるために女性たちをかり集め(round up)たことに同意している。多くの女性たちは、工場や病院で仕事があるとだまされ、慰安所で皇軍兵士に性を提供させられたのだ。東南アジアでは、日本兵が売春宿で働かせるために、騙すなどという手を使わず誘拐したという証拠がある。

性を強制されたと名乗り出た女性たちの中には、中国人、韓国人、フィリピン人ばかりか、インドネシアで捕虜となり収容所に入れられたオランダ人がいた。

日本軍が、戦争開始時にはすでに日本の植民地であった韓国において、女性たちを誘拐したとか騙すことに直接関与したという証拠ははとんどない。だがそれらの女性たちや彼女たちを援助する活動家は、女性たちの意思に反して騙されたり強制されたりしたことがあったと述べている。

しかし、歴史修正主義者たちは、強制連行したという証拠がないことに噛みついているのである。いかなる女性達も性奴隷として監禁されたことはないし、慰安婦は単に金を稼ぐことを目的にやってきた売春婦だったと主張するためである

慰安婦問題の研究者たちにとっての驚きは、吉田証言がウソであった(1997年にはすでに証言には確証がないと認識していた)という朝日新聞の結論ではなくて、公式に記事を撤回するのにこれほどまでに長い時間がかかったということだった。 朝日の社員は、安倍政権のメンバーが記事を書いた記者を非難するために記事を利用してきたために、ようやく行動に移せたとのべ、記録を直截に記載することで攻撃が弱められることを期待するとしている。

だがそれに反して、朝日の動きは非難の嵐を加速したし、歴史修正主義に彼らの歴史観を助長する新たな突破口を与えた。歴史修正主義者はまた、海外の専門家の頭を不信感で攪乱したとの主張すなわち、慰安婦が強制連行の犠牲者だったことを世界に印象づけた罪は朝日新聞だけにあるという主張を強く押し出している。

数十人の女性たちが名乗り出て自らの苦難にみちた証言を行っているにもかかわらず、日本の右翼は国際的な非難をもたらしてきたものは朝日新聞の記事にあると言い募っているのだ。国際的な非難の中には、「20世紀における人身売買の最大のケースの1つ」として日本政府に謝罪を求めた2007年のアメリカ議会決議が含まれる。

保守派にとって朝日新聞を貶めることはまた、あまりに否定的に描かれた日本軍の姿を消し去るとともに、慰安婦に対する1993年の謝罪を覆すという長年にわたる課題を前進させる道でもある、と批評家は述べている。右派の多くは、戦時中の日本の行為はアメリカによる日本への原爆投下を含む第2次大戦の他の国の戦闘行為と違うものではないと主張してきた。

「朝日新聞の発表は歴史修正主義者にとって『どうだ、言った通りだろう』というチャンスなのだ。安倍首相は日本の国家的名誉を傷つけてきた(と彼が信じている)歴史問題にけりをつけるチャンスとみている」、こう述べるのは上智大学国際政治学の中野浩一氏だ。

朝日新聞の競争相手であり、世界最大部数を誇る保守系の読売新聞は、朝日の慰安婦問題での誤報を際立たせる冊子を配布することで、ライバル社のトラブルにつけこんでいる。日本ABC協会によれば、朝日の日刊発行部数は8月以来23万797部を減らして700万部に落ち込んでいるという。

右翼タブロイド紙は、さらに先を行き、植村氏を「慰安婦の偽造者」として選び出し標的としている。彼の記事が朝日新聞を後退させたものとはいえないにも関わらずである。

植村氏は、朝日が恐怖におびえ植村氏も朝日自身をも守りきれなかったのだと述べている。9月には朝日新聞の幹部はテレビで謝罪し編集長を解雇した。

「安倍首相は朝日の問題を他のメディアを脅して自己検閲させることに利用している」、こう述べるのは植村氏の誓願活動を援助している政治学者山口二郎氏だ。そして次のように続ける。「これは新たな形のマッカーシズムだ」

植村氏が地域文化や歴史の講義を受け持つ小さなキリスト教大学である北星学園は、超国家主義者による爆弾の脅威のために契約を見直したことを発表した。その午後、植村氏の支援者は、国家が反対意見を踏みにじった戦前の暗黒時代を繰り返さないように警告する講演を聞こうとつめかけた。

植村氏は、公的に姿を見せることは今は控えたいとしてこの集会には出席しなかった。彼は、「これは他のジャーナリストを脅し沈黙へと追い込む右翼によるやりかただ」といい、次のように述べた。「他のジャーナリストたちには、私と同じ運命に落ちて苦しんでほしくない」