MONEY VOICEのサイトで、活発な言論活動を展開している高島康司というお方がいらっしゃいます。
アメリカ在住経験を生かして英会話セミナーを行ったり、いろんなビジネス書を書いたりしている人らしいのですが、いまいち素性はよくわからない。しかしMONEY VOICEに載った
一つのレポートは注目に値する考察だと私には思えました。
それは、今日の日本の政治に影響力をもついくつかの勢力について書いているもので、「日本会議はもう古い? 我が国エリートが集う『梅下村塾』の影響力」と題するもの。
結論から言うと、この国は「日本会議」「日米合同委員会」「フォーラム21」の3つによって支配の底流がつくられつつあるというものです。
3つに分類できるかどうかは別として、「フォーラム21」に注目しているのはアメリカ帰りの彼だけのことはある。それは、「海外シンクタンクの日本に関する報告書において、「日本会議」よりもはるかに重要な集団として紹介されているのがこの『フォーラム21(梅下村塾)』だからだ」というのです。
なぜそういえるのか。それは、この団体がユーエスコーポレーション社長の梅津昇一が「21世紀の日本・世界を担う新しい指導者を育成」することを目標として1987年に設立した研修機関であり、各省庁、日本を代表する大企業の
「40代から50代の生え抜きのエリート官僚と、企業の幹部候補生」が集まっているからです。
高島さんは、「参加団体を見ると、これは経営塾どころか、日本の中枢に食い込む集団であることが分かる」と断言しています。ほとんどの省庁を網羅し、企業も「それぞれの産業分野を代表する主要な一社に限定」という徹底ぶりですからね。
この団体、結構たくさんの本を出しています。また、集団での議論を重視し、その結果としてまとめた政策提言もおこなっています。「憲法改正試案」も2013年に出しているのです。
ここにその団体の集団的討議の総集編ともいうべき一冊の本があります。「その手があったか!ニッポンの『たたき台』」(以下「たたき台」)というタイトルの結構分厚い本です。
帯には「今の子ども達が大人になったとき、ニッポンは胸を張って生きていける国になっているだろうか」「官民管理職39人のタスクフォースが考えたニッポンを鍛える55の提言」とある。政策提言集であり、同時に憲法をこう変えたいという「憲法改正試案」の手引き書でもあります。
巻末にはご丁寧にというか、当然というか「憲法改正試案」が巻末に添付されていて、彼らの考えがよくわかるのです。
そこで、このフォーラム21とは何ものかを知るために、まず「憲法改正試案」のポイントを見ておくことにします。重要な部分は、コピーをリンクしてお示しします。
憲法前文は自民党試案のように書き直すのではなく、今日の情勢に即したものを追加するというやり方をとっています。どうするかをめぐってずいぶん激論があったようで、フランスにならって、追加という方法でまとめたと本の中で打ち明けてありました。
ここからわかるように、自民党試案のような露骨な立憲主義否定、個人の尊厳の否定というやり方はとっていません。一見すると、国民の権利および義務はほとんどさわっていませんし、第十章の最高法規もそのままです。
ところが、立憲主義の装いをとりながら、自民党改憲案で示された重要な改憲項目はちゃっかり全部取り入れている。「スマートさ」と「ていねいな物言い」を売りに、自民改憲案にも日本会議にも通ずる方向を打ち出しているというのが特徴です。しかも相当に議論していますから、周到な論理の組み立てを行っていることが特徴です。
真面目に真剣に、かつ相当な問題意識を持って議論を交わしている様子は伝わってくるのでよけい始末が悪い。
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天皇は元首に。
現憲法で定めている国事行為だけではなく、地方自治体などの行事にも出席して公的な行為を行うとしています。元首とは何であり、その仕事は何であるのかは一切ふれられていません。
「たたき台」の「コラム」では、海外では天皇は元首として扱われており、「(我々の意識の)中心に、我が国の歴史と伝統、文化に密接につながる天皇制がある」「天皇制を将来にわたり永続させるためにも、今のうちに日本国憲法の中で天皇の存在を明確にしておかなければならない」と書いているのです。自民党、「日本会議」との親和力は相当なものです。
A
第9条の2項を削り自衛隊を書き込む。
この点は安倍改憲案よりさらにストレートで、「日本国は、国の平和と独立を守り、国民の安全を確保するため、及び国際社会の平和と安全の確保に我が国として主体的に貢献するため、自衛隊を保持する」と書いています。
「国際社会の平和と安全の確保に我が国として主体的に貢献する」と書いて、フルスペックでの集団的自衛権の行使をあけすけに主張しているのです。
「たたき台」では、提言30で、「イージス艦を増強、防衛のための敵基地攻撃も」とのべ、提言32では「防衛費を年間3000億円増強」、提言33では「武器輸出を原則OKに」、提言34では「世界の常識、集団的自衛権の行使を可能に」と、なんとも勇ましい。強烈な軍拡・軍事大国志向です。
しかも、アメリカべったりの安倍政権の姿勢を批判するどころか、提言36では「日米防衛協力を新たなステージへ」とし、彼らの基盤が、先に述べた「日米合同委員会」路線の枠内にあることをはっきりと示しているのだから、現在の安倍政権の応援団であると同時に、それをさらに先にすすめようとする意図を感じさせます。それをやれるのは自分たちしかいないという選良意識です。
B
第8章の2として「緊急事態」条項を盛り込む。この点は自民党の草案と酷似しており、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」とし、「国民の生命、身体、財産を守るためにやむをえないと法律が認める範囲内で、身体、通信、居住及び移転の自由並びに財産権を制限する緊急の措置をとることができる」と書いています。
「たたき台」では、「内閣総理大臣など特定の機関に過度に権力が集中し、それが濫用されることへの根強い不安があるようです」と書いて、そのようなことがないように国会が内閣を十分にコントロールする機能を書き込むし、それだからこそ憲法できちんと定めるのだと述べています。さて本当にそうなるのでしょうか。これについては別の機会に考えてみることにしましょう。
長くなりました。他にも重要な問題点があるのですが、それはまた後日に。
この「フォーラム21」に集まっている人たちは先にも述べたように、各省庁や大企業の中堅幹部です。もちろん個人の立場で参加しているのでしょうが、「フォーラム21」の愛称を「梅下村塾」と名付けているように松下村塾気取りです。提言も集団討議に基づくものですから、政治への影響力は馬鹿になりません。海外で注目されるのも無理からぬことです。
日本ではまだあまり知られないこの組織、極めて危険です。これからも十分に注意して見ておくことが必要です。