外交官の職責は重い。一人の外交官の発言が、関係国や地域との関係を瞬時に悪化させ、友好と信頼を崩し、協議する環境まで台無しにすることがある。
「沖縄はごまかしとゆすりの名人」「怠惰でゴーヤーも裁培できない」「日本人は和の文化をゆすりの手段に使う」「憲法9条を変えれば、米国の利益のために日本の土地を使用できなくなる」
沖縄社会のみならず、日本を侮蔑する発言を連発し、軍事優先をあらわにしたケビン・メア米国務省日本部長(前在沖米総領事)が県内各界の激しい怒りを買っている。外交官の立ち居振る舞いが波紋を広げる典型だろう。
■息づく占領者意識
昨年12月に米国務省内で米大学生に対して行った講義で、メア氏は「普天間飛行場は特別に危険ではない」とも述べた。総領事在職中から臆せず繰り返した見解だ。
米軍普天間飛行場の返還・移設問題に深く関わる国務省日本部長の要職に就きながら、日米の基本認識である危険性を軽視するのなら、日米交渉の根底が崩れる。
メア氏は、クリントン米国務長官に直接意見を具申する立場にある。移設先を名護市辺野古にすべきだと主導しただけに事態はなおさら深刻だ。
メア氏の発言には沖縄戦の負の遺産が透けて見える。「米兵の血であがなって獲得した沖縄の支配者は米国」という占領者意識が今なお息づき、米政府内のゆがんだ対沖縄観、対日観を色濃く投影していると見ていい。
歴史や文化、国民性への敬意を踏まえた相互尊重を基に懸案を解決するという、外交官に不可欠な素養が一片もうかがえない。米国益だけが全うされればいいという独善、単独主義が際立つ。
米政府に、沖縄と日本への偏見に満ちたメア氏を即刻解任し、認識を改めるよう求めたい。
駐日米大使館は「米政府の見解を反映していない」と異例の釈明に追い込まれたが、具体的に発言のどの部分が政府見解と異なるのか説明がなく不十分だ。メア氏を不問に付すならば、米政府自ら発言を追認したことにしかならない。
鳩山由紀夫前首相の「抑止力は方便」発言と同様に、メア氏個人の舌禍、資質問題に矮小(わいしょう)化しては本質を見誤る。
図らずも米国の本音を露呈した発言と位置付け、日本政府は毅然と対処すべきだ。厳重抗議しないのであれば、日本政府も発言を是認したことになる。
発言が報じられた7日、永田町・霞が関で追及する動きが乏しかったことは理解に苦しむ。
米国民に対して、同様な発言がなされた時、人種差別に敏感な米議会は見過ごすだろうか。米国と波風を立てたくないという対米追従の空気が、和を尊ぶ日本の文化を「ゆすりの手段」と侮辱されても反応しない要因なのか。
■沖縄の意思表示を
メア氏は講義で、普天間問題に関し、日本政府は仲井真弘多知事に対し「『お金が欲しいならサインしろ』と言うべきだ」と述べた。反対が大多数を占める県内への基地新設も金の力で実現できるという見立ては、基地被害の歴史に連なる県民世論の地殻変動に目を背けている証左だ。今や、党派を超えて忌み嫌う補償型の基地押し付け政策を引きずる発想である。
同氏は2006年から09年まで在沖米総領事を務めた。オール沖縄の地位協定改定要求に対し、「政争の具にしている」と言い放つなど、県民感情を逆なでしたケースは枚挙にいとまがない。
在任中、メア氏は「基地問題の現実的解決には、本音と建前でなく、率直な説明が必要だ。外交官の基本は嘘(うそ)をつかないことだ」と繰り返した。とすれば、今回の沖縄蔑視発言にも誇張はあるまい。
総領事時代のメア氏は、県内政財界の主導権を握る人たちとの接点が薄く、仲井真知事とは没交渉だった。限られた県内移設容認派との関係構築に腐心し、意に沿わない意見には耳を傾けなかった。
重大なことは、知日派と称されるメア氏が発信する沖縄に関するゆがんだ情報が、米政府の普天間交渉の対処方針に悪影響を与えている恐れが大きい点だ。
仲井真知事が、沖縄振興と引き換えに県内移設を受け入れるという見方もワシントンで拡散している。沖縄の民意を無視した基地問題の解決はない。沖縄社会の強固な意思を示し、対抗したい。
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