関西電力大飯原発3、4号機をめぐり住民たちが関西電力に運転の差し止めを求めた訴訟で、「運転差し止め」を命じる画期的な判決が福井地裁で言い渡された・・・昨日の夜の朝日系列のニュースで、朝日新聞がスクープした「吉田調書」の内容とともに詳しく報じていました。
「これ以上ないほどのすばらしい判決」と息を弾ませる団長・中島哲演さん(福井明通寺住職)のなつかしいお顔をほんのちょっとですがテレビは映し出していました。
中島さんとの出会いについては
2011年8月25日にかなりくわしくとりあげています。ご参考までに。
中島さんが言うとおり、下級審にはまだ司法の精神がしっかりと生きており、住民の個人としての人格権を土台とした論理を展開していて、胸のすくような判決です。横浜地裁で昨日出された
自衛隊機の夜間飛行差し止め命令も同様に住民の切実な願いを相当に聞き入れた判断といえます。
ところが、たとえば再稼働差し止めの仮処分申請の大阪高裁での即時抗告審(5月9日)では住民側の申し立てを却下しているわけで、上級審判になればなるほど目線が住民から離れていくいく構造は強まっている。
中島哲演さんは私が知る限り若い頃から福井県内の原発の危険を指摘し、反原発の活動に身を投じていらっしゃいました。そうした方々がいればこその今回の福井地裁の判決です。
今朝の信濃毎日新聞には、大飯原発運転差し止めの判決について二人の学者の短いコメントが紹介されていました。
その一人は地震学者の石橋克彦・神戸大学名誉教授。
石橋さんについては2011年8月23日の記事でその著書を紹介したことがありました。原発にももくわしい権威ある地震学者です。
彼はこの判決を
「画期的で素晴らしい」「安い電気代の維持や二酸化炭素排出削減に原発が役立つという電力側の主張を『筋違い』と断じるなど司法がようやく正気を取り戻した」と全面的に賛辞を送っています。私も石橋さんと全く同意見です。
ところがもう一人の原子力工学者で宮崎慶次大阪大学名誉教授はどうか。
「このような(判決のような)理由をあげれば)すべての原発は動かせなくなる。・・・判決は、原子力の素人が下した無見識で無謀なものだと言わざるを得ず、司法の威信を損ないかねない」だそうです。
いやはや、安倍さんや原発関連会社が泣いて喜びそうなコメントです。コメントというより低級な罵りでしかありません。
宮崎教授の過去の発言をちょっと調べてみますと、あるわあるわ。たとえば次のようなものです。
・一般に新型炉は安全性と経済性ともすぐれている。
・将来的に高速増殖炉と再処理で核燃料を増やしながら使用するのが国家百年の計にかなう。それこそが百年千年とエネルギー文明の持続を期して原発を推進する正当性だ。
・地層処分は技術的にはすでにめどがついている。
・地下では地震の影響は小さく、仮に倒壊しても隔離に問題はないはずだ。地震と火災流で埋まったポンペイ遺跡では2千年もの間、人の形まで保存された。(2014年1月18日朝日新聞朝刊)
これが果たして原子核工学の専門家なの?と目と耳を疑うような主張です。こうでも言わないとリケンにありつけないんでしょうかね。
2011年当時経産省原子炉安全小委員会の委員でもあった同氏は、その年8月24日の報道ステーションで次のようにもおっしゃっている。
確かに信頼は失墜したんですけれども、原子力なしで今後の日本のエネルギー、あるいは世界のエネルギーが確保できるかというと、そういう状況ではないということですよね。だから私は基本的には原子力政策を変更する必要はないと思っております。
(ウランを)使い始めるともっと資源的には逼迫してくると。だから当然将来に対する投資として、もんじゅもやらなければいけませんし、核燃料の再処理施設もきちっとやらなければいけないと。やはり貿易立国日本の我々の将来の生存をかけるのは、モノを作って世界に売っていくということで、その基幹としての電力は、原子力を基幹電力として生きていく、それがベストだと思いますなるほど、商業新聞は「公正・公平」「不偏不党」をムネとし、賛否の「つりあい」をとるために、このような人物のコメントをさりげなく載せるんですね。
「原子力のシロウトが分かったような口をきくな」というご本人でも、よもやドイツ脱原発倫理委員会報告を当然ご存じないはずはありませんね。あっ!・・この倫理委委員会には「原子力の専門家や電力会社関係の人は一人もいません」(委員の一人、ミランダ・シュラーズさん
WebRonza 2012年7月27日)から、宮崎先生にとってはやっぱり問題外でしたね・・・。
ドイツでは3.11後メルケル首相がこの委員会の報告に基づいて脱原発を打ち出し、議会も多数でこの方針を決定したのでした。
問題は、人類社会の未来を展望したときに求められるエネルギーに関する知見、とりわけ理念・倫理なのです。地裁判決の第一・最重要な柱がまさしくこの点であって、専門○○であらせられる宮崎教授にはおそらく到底理解不能なことなのでしょう。これだけは確信を持って言えます。似たような大学教授の面々がそりゃたくさんいらっしゃいますからね。
そこで、
WebRonzaから、この倫理委員会の報告の要点を転載させていただくことにしましょう。どうせ理解不能な宮崎センセなどはこの際どうでもよろしい。
・原子力発電所の安全性は高くても、事故は起こりうる。
・事故が起きると、ほかのどんなエネルギー源よりも危険である。
・次の世代に廃棄物処理などを残すのは倫理的問題がある。
・原子力より安全なエネルギー源がある。
・地球温暖化問題もあるので化石燃料を使うことは解決策ではない。
・再生可能エネルギー普及とエネルギー効率化政策で原子力を段階的にゼロにしていくことは、将来の経済のためにも大きなチャンスになる。ドイツ語翻訳者ユミコ・アイクマイヤーさん訳による
委員会議事録を読むと、日本との大きな違いにすぐに気がつかされます。こりゃ100年経っても日本はドイツに追いつけないと思わされてしまいます。
共同委員長マティアス・クライナー氏が、第一発言で次のように言うのです。
倫理委員会は、委員会を開示し、今日行われる専門家や意見の代表者との対話による諮問や、この公開中継を行うことで、透明性の証としたいと思います。なぜなら、皆様、未来の安定したエネルギー供給への転換は、公の議論と意見形成の上に、誠実さと信頼の上に成り立つだろうからです。いかがです。もう一人の委員長クラウス・テプファーさんは、これを受けてさらに次のように言います。
世界の他の国々とは違い、我が国ではチェルノブイリ事故の以前にすでに、社会共通の確信がありました。「原子力は未来の技術ではない。原子力は移行のための技術である」と。これは確認であり、この得られていた共通認識までもが振り出しに戻らないように、繰り返し強調されなくてはならないと思うわけです。ますます日本とは違いますね。クラウス・テプファーさんは3.11大震災と福島での原発事故について「現地の人々に対して特段配慮しましょう」とも呼びかけています。いろいろ注目すべき議論がありますが、ここでは引用することが目的ではありませんので、あとは
議事録をぜひお読みくださいますように。