11時前に池田を出て、上田でゆっくり食事でもすればいいやと思ったのが大間違い。講演は午後2時からだったので12時頃に到着するつもりでいたら、「真田丸」を忘れていた!上田城近くに近づくにつれて車は多くなり渋滞も発生。路上は人であふれていました。とにかく車をとめる場所がないのです。
30分以上のろのろ運転の中で駐車場を探しまくって、ようやくとめることができたのは午後1時ちょっと過ぎ。幸い混雑のピークを過ぎたところだったようでラッキーでした。
それはさておき、今日の講演は
信州沖縄塾の主催で沖縄の実態をくわしく学ぼうと開かれたものです。
講師は北上田毅さん。辺野古で何が起きているのかを、現場で克明に把握し、かつ研究している、講演者としては現在最もふさわしい人でしょう。
私も初めて知ったのですが、彼は京都で土木技師として長い間様々な工事に携わっていたといいます。なるほど、辺野古の工事現場の問題点を的確に指摘し、県や国と交渉できたのはそうした過去があったからなんですね。
話はあちこち飛んでまとまりに欠けるところがありましたが、詳細なレジメを用意してくれていたので、問題点をつかむ上では大変参考になりました。というわけで、以下私なりに講演を整理してみました。
まず話は、先日国と県とが代執行訴訟について合意した「和解」についてから始まりました。
北上田さんの「和解」についての評価は次のようなものです。
第1に、県の主張(国の代執行という手続きは強権的で、地方自治法上の手続きを踏んでいないという主張)を反映した「暫定勝訴」(県側弁護士)であること。
第2は、このあと1年間は工事ができないわけですから、「工事中止」の意義は計り知れないほど大きいということ。
ただ、この「和解」には最後の第9条項に「国と県は、『是正指示』の取り消し訴訟判決確定後は、直ちに同判決に従い、同主文及びそれを導く理由の趣旨に沿った手続きを実施するとともに、その後も同趣旨に従って互いに協力して誠実に対応することを相互に確約する」と書いてあります。私も初めて読んだときにちょっとわかりにくかった。
これについて北上田さんは、「和解条項の『判決に従う』は、是正指示の取り消し訴訟判決に限られ、その他の裁判、権限には効力は及ばない」と解釈すべきで、仮に県が敗訴した場合でも「仲井眞前知事の埋め立て承認が復活するだけで、新たな問題が生じた場合は承認の撤回ができる」(県側弁護士)なのだと言い切ります。この点は極めて重要だと思われました。
では1年間の工事中断を覚悟しても何故国は和解に踏み切ったのか。北上田さんの見立ては次のようなものです。
@工事の現場が「八方ふさがり」に陥っていてこのまま工事強行ができなくなっているため、体勢立て直しをねらったこと。
A代執行訴訟の敗訴を恐れたこと。
B和解について防衛省がカヤの外におかれるなど政府内部に混乱が広がっていること。
C沖縄県議選、参議院選への影響を恐れたこと。
実際に工事現場や土砂採石場などの状況に照らして、「和解」の背景で何が起こっていたのか。この部分は、さすが土木エンジニアの北上田さんらしい分析や資料に裏付けられたお話でした。
まず、第1に、政府内部の混乱。とくに防衛省の事業の進め方への政府内部での矛盾が広がってきたこと。
たとえば、12月に防衛省がコンクリートブロックを投下するということで安倍首相・中谷防衛大臣も一時その案に傾いたが、知事との調整の複雑な手続きがあることがわかって法務省からストップがかかった」(文春3月号)ことや「1月に国交相から技官が防衛省に出向し、防衛省に注文がつけられた」(産経)など。
第2に、米軍高官の議会での証言が次々と出てきたこと。つまり、アメリカの苛立ちですね。これは日本政府にとっては恐いことです。
ハリス米太平洋軍司令官が議会で、現場でのデモ・抗議などで工事の大幅な遅れがでていることを証言、同様の証言をネラー海兵隊総司令官も議会でおこなっています。
第3は、工事が翁長知事、稲嶺名護市長の抵抗で強行できず、八方ふさがりになっていることです。
とくに、開場ボーリング調査が1年4ヶ月も遅れていること、汚濁防止膜設置のためのコンクリートブロック投下が、「岩礁破砕許可の範囲外」とした県からの抗議と中止指示で3ヶ月以上も実行できない状態が続いていること、護岸工事のため工事用進入路造成工事が途中で停止に追い込まれていることなどが大きな要因です。
最後の造成工事については何重もの違法工事であることを、北上田さんはくわしく解明していました。
さて、「和解」によって、国が「是正指示」を出し、知事がその取り消し訴訟を起こして、それが敗訴した場合、結局工事が強行されてしまうのではないかという、今後の見通しの肝心の部分についても北上田さんの説明は明快。「知事権限を行使すれば本体工事は不可能」だと断言していました。
その理由の第1は、知事は「承認取り消し」とは別に、承認後の事由(世論、岩礁破砕許可申請なしのコンクリートブロック投下、設計概要変更申請なしの工事など)を理由にして「埋め立て承認撤回」に踏み切ることができること。
第2は、埋め立て本体部分の岩礁破砕許可の取り消しができること。
第3は、今後の「設計概要変更申請」を一切承認しないようにすればいいこと。公有水面埋立法13条によれば、変更するには知事の承認が必要だからです。たとえば河川(美謝川)の水路変更とか、埋め立て土砂運搬方法の変更などがあげられますが、いずれも国は取り下げざるを得なくなっているのです。
第4は、キャンプシュワブや基地予定地には埋蔵文化財が多数あって、調査が完了するまで工事はできないのです。
第5に、それ以外にも沢山の知事権限、市長権限がありますから、結局国や防衛省がどんなにジタバタしても工事続行は不可能に近い。
ただし、北上田さんも言うように、世論の力、現場での抗議行動のいっそうの蓄積こそが勝利の原動力であることは当然です。世論が弱まれば、政府は権力を笠に着て襲ってくる。
実際、国は辺野古工事中断をいいことに、今度は高江でのオスプレイパッド建設に力点を移し始め、実力行使も辞さない構えで車やテントの排除を狙っているのです。
辺野古基金は、現在5億4400万円にのぼり、名護市へのふるさと納税は15年度だけで2億5千万円と前年の12倍にのぼるそうです。
戦争法具体化の最前線ともいえる辺野古新基地建設阻止のたたかいは、沖縄県民と全国の世論の高まりの中で新たな地平を築きつつあると実感させる北上田さんの講演でした。