戦時性奴隷制度(いわゆる「従軍慰安婦」)の報道をめぐって、元朝日新聞記者だった植村隆氏に対して「記事をねつ造した」などと誹謗中傷を重ねた文藝春秋社、西岡力氏、櫻井よし子氏らを名誉毀損で訴えていた裁判で、札幌地裁が昨日原告の請求を棄却するという判決を出したことが小さく報道されました。
「ねつ造」キャンペーンが始まったのは、もう5年も前の話。桜井、西岡氏などの記事に触発されて、植村氏に対する常軌を逸した脅迫・嫌がらせが頻発、さらにはそれが植村氏の高校生(当時)だった娘さんへの殺害予告にも発展、当時働いていた神戸の大学教授職を断念せざるを得なくなり、講師を務めていた北星学園大学にも爆破脅迫などが相次いだのでした。
こうした異常な行動をあおったのが、週刊新潮、週刊ダイヤモンド、月刊WiLLなどであり、執筆した中心人物が櫻井よし子氏であり、当時週刊文春の記者だった西岡力氏であったのです。
そもそもこの問題は、もう今から27年近くも前の植村氏の署名記事が発端でした。それが右の記事。
ただし、写真は不鮮明なので本文は
こちら。
朝日新聞社は2014年に検証記事を掲載し、この植村氏の記事に対して
「意図的な事実のねじ曲げなどはありません」と断言しました。
桜井氏や西岡氏は、植村氏が一体何をどのように「ねつ造」したというのか。
先の朝日の記事では、「批判する側の主な論点は、@元慰安婦の裁判支援をした団体の幹部である義母から便宜を図ってもらったA元慰安婦がキーセン(妓生)学校に通っていたことを隠し、人身売買であるのに強制連行されたように書いたという点」だとしています。
しかし、その後の週刊誌、雑誌での「批判」はそれにとどまらず、「この女性、金学順氏は後に東京地裁に訴えを起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたなどと書いている」「慰安婦とは無関係の『女子挺身隊』と慰安婦が同じであるかのように報じた。それを朝日は訂正もせず、大々的に紙面化、社説でも取り上げた。捏造を朝日は全社挙げて広げたのである」(桜井よし子)=植村氏の冒頭陳述=などと、「ねつ造」を全面に押し出してきたのでした。
当時読売新聞も、植村氏の報道があたかも軍による強制連行を示唆するというような書きぶりで、「『日本軍に強制連行され、慰安婦にさせられた女性』という印象を前面に出している」(2014年8月29日=ネットでの記事はすでに削除)と書いていました。
「従軍慰安婦は職業売春婦だった」だとか「軍による強制連行の事実はない」という、歴史修正主義者、極右からの歴史の歪曲・改ざんは、学問的にはすでに決着がついていますが、今もなお執拗に出てくるのはこの国の底流にある根深いアジア諸国民への差別と日本大国意識、選民意識なのでしょう。
毎日のように国会で大汗をかいているオリパラ大臣も2016年1月14日、「職業としての売春婦だった。それを犠牲者だったかのようにしている宣伝工作に惑わされすぎだ」(その日に撤回)とおっしゃっていましたし。
植村氏自身による裁判での
冒頭陳述を読んでみました。陳述は約20分、提訴に至った経緯とその意味を語り、最後に「私の記事が「捏造」でないことを証明したい」と結んでいます。
事実裁判では、第1回から植村氏側は桜井氏のコラムの誤りを指摘し、「調べればすぐわかることを調べず、私の記事を捏造と決めつけ、憎悪を煽っている」と批判。当初は様々なメディアでの表現は単なる「評論」としていた桜井氏も弁護団側の追及に第4回になって「一部は『事実の摘示』(名誉毀損を構成する公然とした意思表示)である、と準備書面で認めた」ものの、「事実の摘示であっても、植村氏の社会的評価を低下させない」などと言い逃れ。
第7回では、「植村さんや大学への脅迫メールや手紙の内容と本数を明らかにし、櫻井言説がネット上で拡散し植村バッシングを引き起こしたことを時系列データをもとに指摘」。そして第11回審理では、植村さんと櫻井氏の本人尋問が終日行われ、「櫻井氏の著作の重要な誤りを詳細に指摘した。櫻井氏は誤りを認め、訂正することを約束した」(
札幌訴訟 これまでの経過)のでした。
今年になって、産経新聞は過去に載せた桜井氏のコラムについて、謝罪なしの
訂正記事を出し、事実上桜井氏が「ねつ造」としてきた根拠が崩れます。
月刊WiLLも今年の7月号で同様の訂正記事を出さざるを得なくなりました。(依然として櫻井氏の論調を擁護しているが)
さて、ようやく結審を迎えた裁判だったが、結果は「原告の請求を棄却する」というもの。
まず判決は、「札幌地裁の判決は『捏造』を事実の摘示であることを認め、櫻井氏はその表現により植村氏の名誉を毀損したことを認め」ます。が、その後がいけない。
「しかしながら,櫻井氏は金学順氏が日本政府を訴えた訴状等の記載から,継父によって人身売買された女性であることを信じ,原告の妻が太平洋戦争犠牲者遺族会の幹部の娘であることから植村氏の本件記事の公正さに疑問を持って,原告が事実と異なる記事を敢えて執筆したこと,つまり『捏造』したと信じたことには理由があると判断」(以上、括弧内は
弁護団の声明から)したのだ、だから名誉毀損にはあたらないというわけです。
こうなったら、日本の一部の裁判官はネトウヨと手を結んで、批判的なジャーナリズム(ジャーナリズムは権力に対してもともと批判的であるはずだが)を根絶やしにする役割を果たしているのかと思えてきます。辺野古裁判も同類です。
自身だけではなく家族にも命の危険をもたらすようなバッシングの口火を切った桜井、西岡氏などは、ウソ・デマのたぐいの拡散などによって植村氏に対して名誉毀損どころではない重大な打撃を与えているのですから。もっとも日本会議の先頭に立って安倍政権を持ち上げる櫻井氏、この裁判で「提灯持ち川へはまる」ですけど。したたかですから、3歩歩くと忘れてしまうニワトリのように、またまたどこかで同じことを繰り返すのでしょうかね。
いつになく長たらしく書いてしまいましたが、実は新聞記事を見落としていて、岩上安身さんのツイッターで知りました。
その岩上さんのツイッターの件は
「Osprey Fuan Club」の記述からたどりつきました。ツイッター・ジャパンが独立ウエブジャーナル(IWJ)を封殺しようとしている今日の姿(これは重大です)に恐ろしさを感じた私、ついついネットをたどっていろいろと調べてしまったのでした。
岩上さん曰く、「昨日、5つ凍結され、今日また新たに1つ凍結されました。もうむちゃくちゃ。」
* * *うちのハルちゃん、こんな風に「お手」してくれないかなあ。
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